若い日の伝道の思い出──青年の声伝道
町内のみなさーん! 夜7時から青年の声伝道集会がありまーす。みなさーん、おいで下さーい。
K市の外れ、住宅密集地の路地に、青年たちの声がこだまする。時間になると2人、3人と若者たちが、狭い民家に入ってくる。青年が立って賛美をリードする。暗闇を破って活気があふれてくる。祈りが終わると第一の青年が語り始める。世界総会青年部が作った原稿を必死で覚えて2か月。続いて第二、第三の青年が続く。
汗びっしょりかいて話す青年たち。上手とは言えない話し方、おずおずした冴えない口調。だけど、不思議に聴衆は彼らの話に引き込まれていた。
この青年たちはいずれも、十代後半から二十代前半。話ができるか、人が話を聞いてくれるかを考えるひまもない。あるのは、やろうという九州男児の意気込みだけ。青年の声伝道をしようとの教団の号令だけで、日本のどこでもやったことのない、未知の伝道活動への挑戦だった。
看板を作ろうとすると、看板屋の息子が指導する。初めてのことで、教会もペンキだらけ。できあがりはいかにも素人臭い。でも、堂々と担いで張り出した。
夜の野外での集会もある。民家から電線を引きたい──こんなとき電気屋がいるといいね。なら、祈ろう!……すると、その集会に来た青年がなんと電気工事士だった!
ある夜は前回と正反対の町外れで集会をした。地元の青年が「ぼくのところで」と、場所を探してきたのだ。会場は公園の東屋──ここは電気工事士の出番である。早速電線が引かれ、会場を照らし出す。
しばらくして、「ありゃー雨だ!」
すると、地元の青年が家からテントを持ってくる。みんなで大急ぎで東屋にかけた。ますます強くなる雨、それでも数名が席についていた。
青年たちはその夜も語った。終わって後かたづけをしていると、出席していた中年男性が戻って話しかけてきた。心の病で休職中とのこと。「今夜の話は全部分かったと言えないが、青年たちの熱意を感じた。少し元気が出てきた。ありがとう、皆もがんばって私みたいな誰かを励まして」と。これ以上の贈りものはない。語った青年の中には、まだバプテスマを受けていない者もいた。「キリストの言葉って、本当に人を生き返らせるんだね!」もちろん、この青年はバプテスマを受けた。
50年後の今、彼らは教会役員として奉仕したり、若くして信仰の旅路を終えたり、常時教会に出席できない人もいる。しかし、青年時代、汗を流し合った友情は今でも変わらない。(渡辺恒義)