ありがとう

投稿日: Sep 21, 2009 12:49:11 PM

とても感動した話を二つ。闘病の末、応答しなくなった夫の苦しそうな姿を見て、姿勢を変えようとした時、夫の手に触れました。その時、意識のないはずの夫が、はっきりと「ありがとう」と言ったそうです。大正生まれの日本男子がめったに妻に言わない言葉でした。しかし妻にとって、今までの苦労が喜びに変わり、生きる力を与えた一言でした。

「ありがとう」は、「愛している」を百回繰り返す以上の力があります。日本の男として妻に「愛している」はどうも言いにくいのですが、「ありがとう」は言えます。ごはんの支度をしてくれたら「ありがとう」。一日の仕事が終ったら、「ご苦労様」と共に「ありがとう」。元気で丈夫なわが子に「ありがとう」。「ありがとう」は、夫婦・家庭の潤滑油です。

もう一つ、少年Aに愛娘を奪われた神戸の母の本、『彩花へ、生きる力をありがとう』。死にたいと思う程苦しむ母には、憎悪、絶望が普通です。それなのに、この母は「ありがとう」と言うのです。その理由をこう書いています。「苦しみの中から、どうやって人間の信頼を回復できるのかと努力することこそ、亡くなった者の人生に意味をもたらす」と悟った時、娘の死が母の生きる力になりました。死んだ娘が幸せかどうかは、残された自分が決めるというのです。娘の遺影に「ありがとう」と語りかける母の姿に最高の愛を見ます。

一番身近な人に、「ありがとう」。何もしてくれなくても、「ありがとう」。ひどい仕打ちをされた時にも、「ありがとう」。「ありがとう」は愛の言葉です。

「信仰と希望と愛、この三つはいつまでも残る。そのうちで最も大いなるものは、愛である」(新約聖書「コリント人への第一の手紙」13:13)。(「三育はこぶね」128号 渡辺恒義名誉牧師記)